新しいAI基盤モデルは、科学者や開発者、企業が、気象や気候データをより良く理解・分析できるよう、予測を超えた洞察を提供
【米国ニューヨーク州ヨークタウン・ハイツ – 2024年9月23日(現地時間)】
IBMは、本日、科学者や開発者、ビジネスのコミュニティー向けに、オープンソースで利用可能な、気象および気候のさまざまなユースケースに対応する新しいAI基盤モデルを発表しました。IBMとNASAが、オークリッジ国立研究所の協力を得て共同開発したこの基盤モデルは、短期的な気象予測と長期的な気候予測に関連するさまざまな課題に対処するための、柔軟でスケーラブルな方法を提供します。
気象や気候に関する基盤モデルは、arXivに最近公開された論文「Prithvi WxC:Foundation Model for Weather and Climate」で概説されているように、その独特な設計と学習体制により、既存の気象に関するAIモデルよりもはるかに多くの応用例を検討することができます。潜在的な応用例としては、局地的な観測に基づいたターゲットを絞った予報の作成、異常気象パターンの検出と予測、地球規模の気候シミュレーションの空間解像度の向上、数値気象・気候モデルでの物理プロセスの表現方法の改善などがあります。上記の論文における実験の1つでは、基盤モデルは、元データから無作為に抽出したわずか5%のサンプル・データから地球の表面温度を正確に復元しており、これはデータ同化の問題へのより広範な応用を示唆しています。
今回発表した基盤モデルは、NASAのModern-Era Retrospective analysis for Research and Applications, Version 2 (MERRA-2) による40年間の地球観測データを使用して事前学習されました。グローバル、地域、ローカルの規模にファイン・チューニング可能な独自のアーキテクチャーを備えており、基盤モデルとしてのこの柔軟性が、さまざまな気象研究に適しています。
この基礎モデルはHugging Faceでダウンロード可能なほか、特定の科学的・産業的応用に対応する、以下の2つのファイン・チューニング・モデルも利用可能です。
- 気候と気象データのダウンスケーリング:ダウンスケーリングは、低解像度の変数から高解像度の出力を推測する気象学の一般的な実装の一つです。です。入力する典型的なデータには、気温、降水量、地上風などがあり、これらの解像度はさまざまです。この基盤モデルでは、気象と気候データの両方を最大12倍の解像度で表示でき、局地的な予報と気候予測を生成します。ファイン・チューニングされたダウンスケーリング・モデルは、Hugging FaceのIBM Graniteページで公開されています。
- 重力波パラメタリゼーション:重力波は、大気中に遍在しており、雲の形成や航空機の乱気流など、気候や気象に関連する多くの大気プロセスに影響を与える可能性があります。従来、既存の数値気候モデルは重力波を十分に捉えておらず、重力波が気候プロセスにどの程度正確に影響を与えるかという点で不確実性につながっていました。この気象・気候基盤モデルは、科学者が重力波の発生をより正確に推定し、数値気象・気候モデルの精度を向上させ、将来の気象・気候現象をシミュレーションする際の不確実性を抑制するのに役立ちます。この重力波パラメタリゼーション・モデルは、NASA-IBM Prithviモデル・ファミリーの一部としてHugging Faceで公開されています。
NASA科学ミッション本部地球科学課のディレクターであるカレン・サンジェルマン氏(Karen St.Germain)は、次のように述べています。「人類の利益のためにNASAの地球科学を発展させることは、実用的な科学を、人々や組織、コミュニティーに役立つ形で提供することを意味します。私たちの故郷である地球で目にしている急激な変化に対応するためには、この戦略を緊急性をもって実行する必要があります。NASAの基盤モデルは、準備、対応、緩和の方法に関する意思決定に役立つ気象や季節、気候の予測という、人々が利用できるツールを作成するのに役立ちます」
IBM Research Europeのディレクターであり、IBMのAccelerated Discovery(発見の加速化)部門Climate& Sustainabilityリードのホワン・ベルナベ・モレノ(Juan Bernabe-Moreno)は、次のように述べています。「この分野では、一定のデータセットと単一のユースケース (主に予測) に焦点を当てた大規模なAIモデルが登場しています。IBMとNASAが開発した気象・気候基盤モデルは、そのような制約を超え、さまざまなインプットや用途に合わせてチューニングできるように設計されています。例えば、このモデルは、地球規模でも局所的な規模でも実行できます。技術面でこのような柔軟性を備えているため、このモデルは、ハリケーンや大気中の川などの気象現象を理解したり、気候モデルの解像度を高めて将来の潜在的な気候リスクを推論したり、最終的には差し迫った異常気象現象の理解に役立てるのに適しています」
オークリッジ国立研究所 国立計算科学センターのディレクターを務めるアルジュン・シャンカール氏(Arjun Shankar)は、次のように述べています。「最高峰の研究機関およびコンピューティング施設として、私たちは科学のさまざまな分野で研究のブレークスルーを達成するチームのサポートに注力しています。IBMおよびNASAと協力し、Prithvi気象・気候基盤モデルの開発を支援したことは、国家的に重要な問題、今回の場合は効果を上げるために継続的な計算科学とモデル・スキルの向上が必要な気象と気候のアプリケーション、に高度なコンピューティングとデータを提供するという私たちの目標の重要な部分でした」
IBMはすでに、新しい別の気象予測ユースケースでモデルの柔軟性をテストする目的で、カナダ環境・気候変動省 (ECCC) と協業しています。ECCCは、このモデルを使用して、リアルタイムのレーダーデータを入力として取り込む降水ナウキャストと呼ばれる手法を使って、非常に短期の降水量予報を模索しています。チームはまた、15 kmの解像度での全球モデル予報からkmスケールへのダウンスケーリング・アプローチもテストしています。
この気象および気候モデルは、IBM ResearchとNASAがAI技術を使用して地球を探索するための大規模なコラボレーションの一環であり、AI基盤モデルのPrithviファミリーに加わります。IBMとNASAは、昨年、Prithvi地理空間AI基盤モデルを、Hugging Faceで利用可能な最大のオープンソースの地理空間AIモデルにしました。この地理空間基盤モデルは、災害パターン、生物多様性、土地利用、その他の地球物理プロセスの変化を調査するために、政府、企業、公的機関によって使用されています。基盤モデルと重力波パラメタリゼーション・モデルは、NASA-IBM Hugging Faceページから、ダウンスケーリング・モデルはIBM Granite Hugging Faceページからアクセスできます。
当報道資料は、2024年9月23日(現地時間)にIBM Corporationが発表したプレスリリースの抄訳をもとにしています。原文はこちらを参照ください。
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